昔から身近なものを有効活用するのを考えることが好きだった。 小さい頃は砂をかけると回るおもちゃから動力を取り出せないかと考えていた。 定期的に風力や太陽光、エアロバイクで発電したくなるし、ソーラークッカーも年に何回か思い出しては調べている。 何かを書き込んだ後の紙を活用できないかと考えて箱を折ってみたが、需要が供給に追いつかずいまだに大量の箱を使いきれていない。 「ねこじゃらし」と呼んでいた草を火で炙るとポップコーンのようになると本で読んでからずっとやってみたくてしょうがないのだが未だにできていない。

タンポポのコーヒーを作りたくなるのもおそらくそれらと同じことだろう。 道端に生えているタンポポが、嗜好品に生まれ変わる。 とても楽しそうだ。 というわけでタンポポのコーヒーを作ることに成功したのでここに情報をまとめておく。

念のため解説すると、タイトルはここのもじりである。 多元宇宙は多分関係ないし、アルコールは入ってないし、使うのはタンポポの花ではなく根っこだ。 でもタンポポで飲み物を作ると聞いてこの作品を思い出したので何も考えずに使った次第である。

1 - タンポポについて

タンポポが食用だと知らない人もかなり多いだろう。 実際親は毒があると思っていたし、作っている間もずっとそのことを心配していた。

タンポポは食用である。 その葉は古くから東ヨーロッパや中東でサラダにされているようだ。 アメリカの一部では花を自家製醸造酒の原料としている。 全体を乾燥させたものは蒲公英(ほこうえい)という生薬とされた。 今でこそ根を深くはる迷惑な雑草だが、もともと日本に西洋タンポポがやってきたのは野菜として食べるためだった、とかいう話も聞く。

一部の品種はその汁がゴムの原料になるらしい。 多分それは食用ではないだろう。 毒があると思うのは、あの白い汁に原因があるかもしれない。 ゴムなどの食べられなさそうなものを連想させる。

タンポポコーヒー(dandelion coffee)は19世紀アメリカで考案されたらしい。 また、WW2で供給の破綻したドイツでは、本物のコーヒーの代用に飲まれたとも言う。 コーヒーと名がつくがタンポポフレーバーのコーヒーというわけでもなく、コーヒーは一切入っていない。 タンポポにはコーヒーから初めて単離されたクロロゲン酸化合物が含まれており、そのため風味が似ているのだ。 カフェインは入っていないので、自分のようにカフェインを避けるよう言われている人や、不眠症だがコーヒーは飲みたい人、子供、妊娠/授乳期の女性でも安心して飲める。

2 - タンポポの根を入手する

そういうわけでタンポポのコーヒーを作る。 まずタンポポを探さなくてはならない。 それもどこのタンポポでもいいというわけでもなく、まず農薬などで汚染された場所のものはできれば使いたくないし、品質のことを考えるとできるだけまっすぐ根を張れる場所の方がいい。 また、道路の隅に生えているような奴はたくさんあるが、アスファルトをスコップで砕くのは簡単ではない。 それにここまで深いとおそらく穴を掘るのにも許可が必要だろう。 自分かその関係者の、舗装されていない私有地に生えている大きなタンポポがいい。

考えた結果、まず自分でタンポポを栽培してみることにした。 秋のことである。 この時期の学校のグラウンドの端には西洋タンポポが何本も咲いている。 しかし掘り返すのは色々難しいだろう。 タンポポの綿毛を持ち帰り、親の実家の畑に蒔かせてもらった。 結論から言うとこの種は未だに生えてこない。 秋の1日は春の1週間と言うので、ちょっと種まき時期を逃したかもしれない。 それとも蒔き方が浅くて鳥に食べられてしまったのだろうか。

それからしばらくして、畑に元から生えているタンポポを掘っていいと言われた。 スコップとなんか鎌っぽいやつを使い掘り出してみた。

掘った穴

タンポポの根は地下50cmを超えてさらに深く伸びていた。 畑といえどもここまで深く耕すことはあまりないし、畑の中でも特に何かが生えているわけでもなく通路のようになって踏み固められていたので、予想はしていたが掘り返すのはなかなかの重労働であった。 しかし、穴というのは深く掘るよりもすでに掘られた穴を広げる方が簡単なものである。 人工的に栽培して一列に並べれば1本あたりの労力は減るかもしれない。 地上からは1本に見えたタンポポだが、根を掘り出してみると何本かがまとまったものだった。 種が塊で飛んできたのだろうか? 水で洗い泥を落とし、持ち帰った。

3 - 乾燥させる

入手した根を2、3cmほどに切って干す。 いかにもそれらしい平べったいカゴのようなものがあればよかったのだが、持っていなかったのでネットに入れて吊るすことにした。

網に入ったタンポポの根

しばらく干していると、だんだんと萎びてかたくなってくる。 雨が降ると、干すのをやめて冷蔵庫の中にしまう。 だんだんめんどくさくなってきてずっと冷蔵庫の中に入れておく。 そんな感じで20日くらい経過した。 たぶん実際に干したのはその半分程度ではないだろうか。

4 - 砕く

ふとタンポポの根の事を思い出して冷蔵庫を開ける。 根はしっかり乾いていた。 次にこれを砕かなくてはならない。 しかしここで、乾燥してカチカチになったタンポポの根を砕ける機材がないことに気がついた。 とりあえずキャベツなどをバラバラにできる手動の道具を使ってみる。 表面の細いひげ根が切れたが、それだけだった。 次にリンゴをジュースにできるミキサーを使う。 「材料といっしょに必ず水を入れてください。 故障の原因になります。」と書いてあるが気にせずスイッチを入れる。 すぐにバリバリとものすごい音がした。 今にも容器が内壁にぶつかったタンポポの衝撃で割れそうな音だった。 あわてて手を離したが、どうやら押し方によりロックがかかったらしく止まらない。 とりあえず逃げた。 タンポポで死にたくない。 結局怖いので親にやってもらうことにした。 ある程度砕けたが、大きな塊が残った。

砕いたもの

この時点で見た目からくる根っこだという抵抗感はなくなってきた。 次につくるときはコーヒーミルか何かを用意した方がいいかもしれない。

5 - 焙煎

焙煎というとなんだか難しく聞こえるが、要はかき混ぜながらゆっくり空炒りするだけである。 「からいり」と入力すると「空炒り」と「乾煎り」の2つが出てくるが、どちらを使うべきなのかいまいちよくわからない。 小さなフライパンに砕いたタンポポの根を入れて、弱火にかける。

焙煎前

だんだんと茶色になってくるが、大きな塊はあまり色が変わらない。 砕くための道具を用意していなかった事を後悔し始める。

焙煎中

すぐにフライパンの接している部分だけが色づいてくるので、ひたすらかき混ぜる。 30分ほど焙煎していたらしい。 本物のコーヒーのような色が出てきた。

焙煎後

6 - ドリップ

食事制限でコーヒーが飲めなくなって久しいので、コーヒーメーカーはしまい込んでしまった。 もう待ちたくないのでお茶のようにティーポットで淹れてみる。 コーヒーメーカーは上からお湯を注いでコーヒーをだす。 お湯と豆が触れている時間はそんなに長くないはずだが、出てきたものには底が見えないほどしっかりと色が付いている。 タンポポのコーヒーもそれと同じようにお湯を注いで即座に色が変わった。 まっくらだ、見た目はまさにコーヒーだ。 しかしここで重要な事を指摘される。 コーヒーは一般的にフィルターを使って淹れる。 ティーポットは網でお茶の葉とお湯を分離する。 コーヒーフィルターよりもはるかに目の荒い網では粉が出てきてしまうのではないかと言われた。 言われてよくみると網の外に粉が浮かんでいる。 結局ティーポットで淹れたものをカップに注ぐ際にコーヒーフィルターで濾すことにした。 作れる量としては思ったより多かった。 2、3本ではカップ2杯ほどで限界だろうかとみていたが、どうもカップ3杯分ほどをドリップできる量が2回分ほど得られた。

7 - 飲んでみる

カップに注がれたタンポポコーヒーは、見た目からは普通のコーヒーと区別が付かなかった。 いい香りが漂ってくる。

タンポポコーヒー

焙煎したてなだけあってなかなか香ばしい。 飲んでみると、まったく抵抗がなかった。 普通のコーヒーのように楽しむことができる。 正直おいしかった。 確か2杯ほど飲んだと思う。 コーヒーの独特の風味があった後、かすかに根っこ感がある。 普通に飲むぶんには十分コーヒーの代わりをできるだろう。 また作りたい。