使い捨て懐炉と合わせて燃料式の懐炉を使っている。 おそらく同年代ではどんなものか知っている人の方が少ないのではないだろうか。 実際自分も親が買って来るまで知らなかった。

白金触媒式カイロのイラスト

燃料式の懐炉には、燃料を染み込ませるワタの入ったタンク部、火口、フタと3つの部品からできている。 燃料はベンジンである。

まず燃料をタンクに入れ、火口をはめてライターで火をつける。 すると気化したベンジンが火口で反応し始める。 通常ベンジンは火がつくと一瞬で反応して燃え尽きてしまうのだが、火口の白金触媒により燃焼よりもゆっくり、かつ低温で反応をおこすことで、懐で燃え上がったりしないようになっている。 反応によって熱が発生し、それがタンクに伝わることでさらに燃料が気化し、反応が起こる。 このサイクルが白金懐炉の基本的な仕組みである。

使い捨て懐炉と違い、燃料が反応するとすべて二酸化炭素と水になって出て行くので燃料が入っていたボトルくらいしかゴミが出ない。 さらに使い捨て懐炉よりも熱量があり(一桁ほど違う)、南極探検隊が使うほど安定している。 中身が偏ることもない。 グッドデザイン賞も受賞している 。 そしてなにより情緒がある。

ある日学校でその懐炉が暖かくないことに気がついた。 火口が一度でも反応可能な温度を下回るとそこで動かなくなってしまうので、おそらくどこかで火口が冷えたのだろう。 ライターは持っていない。 近くに持ってそうな人もいない。 ライターを買いに行くこともできない。

どうしようかと困っていると友人が虫眼鏡を持っていることを思い出した。 何に使っているのかわからないが、なぜか持ち歩いている。 やはりその日も持ってきていた。 ひょっとしたら光を集めて火口を点火できるのではないか?

虫眼鏡を貸してもらい、窓際でフタを外した懐炉と虫眼鏡を持つ。 懐炉は懐に入るよう薄い形になっている。 下手に動かすと懐炉を持っている手や、机を焼いてしまうだろう。 また、温度が上がりすぎる可能性もある。 ひょっとしたら燃え上がるかもしれない。

しかしその日は寒かった。

火口に光を集め、30秒ほど当て続けてみる。 小さい頃も虫眼鏡で光を集めて遊んだことがある。 紙を焦がして遊んでいたら突如燃え上がってびっくりした思い出がある。

火口の近くを触ってみる。 すこし暖かい。 どうやらちゃんと加熱できているようだ。 またすこし光を当てて、フタを閉めずにおいておく。 しばらくするとさわれないほど熱くなってきた。 これは明らかに太陽光で与えられた熱ではない。 どうやら本当に虫眼鏡で点火できてしまったようだ。

虫眼鏡で光を集めて遊んだことは数多くあるが、それが実際にこうして役に立ったのは初めてではないだろうか。 フタをつけて専用の袋に入れる。 テンション上がって来た。 聖火は太陽光を集めて作るらしい。 聖火にちなんで、火がついている間この懐炉はオリンピック懐炉と名付けることにした。 長々と書いたが言いたいことはこれだけである。